専門職のシフトは、なぜそんなに難しいのか

計算、現場、人の感情、経営が交差する問題

シフトメーションという社名から、「シフトを自動で作成するSaaS」を思い浮かべる方は多いかもしれません。しかし実際にこの会社が向き合っているのは、単純な自動化では言い表せない、もっと複雑な問題です。

専門職のシフト作成には、資格や法令、希望休、働きやすさ、現場ごとの運用、人件費、配置の最適性まで、多くの条件が絡みます。しかも難しさは、条件数の多さだけではありません。計算上は正しくても、現場で使われなければ意味がない。効率的でも、人が納得できなければ運用は続かない。現場にとって成立し、経営にとっても持続可能であって初めて価値になるテーマです。

実際、専門職シフトの作成には、管理者が毎月20〜30時間を費やすことも珍しくありません。その負担は、単なる業務工数にとどまらず、法令順守、サービス品質、従業員体験、さらには経営効率にも直結します。

今回は、株式会社シフトメーション 代表取締役の能塚正基と、取締役CTOの谷田直輝に、専門職シフトの何がそんなに難しいのか、なぜこのテーマに挑むのかを聞きました。


一見すると「ルールを入れて最適化すればよい」ように見える

谷田 一番最初に伝えたいのは、シフト作成は「ルールを入れて最適化すれば解ける」問題ではないということです。たとえば、ある介護施設の夜勤を考えてみてください。夜勤には介護福祉士の資格を持つスタッフが最低1名必要です。今週、資格を持つAさんは希望休。Bさんは夜勤回数の上限に達している。Cさんは資格を持っているけれど、新人のDさんとの2人体制では指導の負荷が大きい。Eさんは先月夜勤が連続して、今月は日勤中心にしたいと申告している。

シフト作成は、一見すると「ルールを整理して最適化すれば解ける問題」に見えます。ですが実際には、現場ごとの運用、労務ルール、スキル要件、人の希望、突発欠勤、繁閑の波、過去から続く慣習など、形式化しにくい要素が数多くあります。さらに難しいのは、答えが計算上きれいであるだけでは足りないことです。現場が納得し、使い続けられることまで含めて、初めて良いシフトになる。そこまで含めて扱わないと、プロダクトとして価値を出せません。

能塚 このテーマを事業にしようと決めたのは、まさにその難しさを知ったからです。現場の管理者が毎月20〜30時間かけてシフトを組んでいる。しかもその時間は、管理者の「見えない残業」として処理されていることも多い。経営側からは、シフトが毎月出来上がっている事実しか見えないので、そこにどれだけの負荷がかかっているか気づきにくいのです。私は、そこに構造的な課題があると考えています。

谷田 Excelで何とかなっているように見える現場も、実態を伺うと「何とかなっている」のではなく「何とかしている人がいる」だけなんですよね。その人が辞めた瞬間に破綻する。


技術として難しいのは、「現実をどこまで表現し、どこで抽象化するか」

谷田 技術課題を一言で言うなら、「形式化しきれない現実に対して、計算可能で運用可能な意思決定支援をつくること」です。労働基準法の上限、業種固有の配置基準、資格要件、希望休、連勤制限、公休数──ここまでは「書かれているルール」です。ところが現場には、同じくらいの量の「書かれていないルール」がある。「この2人は同じシフトに入れないほうがいい」「あの人は金曜の夜勤明けだと土日の家庭に支障が出る」「新人は最初の3ヶ月、必ずベテランとペアにする」。その全体を計算の都合だけで単純化しすぎると使われませんし、逆に現実をそのまま全部持ち込むと、モデルもプロダクトも破綻します。つまり、現実をどこまで表現するか、どこで抽象化するか、どこを運用で吸収するか。その設計自体が、技術課題の中心にあります。

加えて、この領域では単純に最適解を求めれば終わりではありません。複数の制約と目的が同時に存在し、しかも顧客ごとに重みづけが異なる。組合せ爆発やトレードオフは当然ありますし、さらにプロダクトとしては、設定可能性、説明可能性、運用可能性まで求められます。そこが面白くもあり、難しいところです。

能塚 事業の側面としても非常に重要なポイントです。ただ単に「計算が難しい」だけではなく、「何をプロダクトで解き、何を現場運用や組織設計で支えるか」を決める問題でもあるからです。言いかえると、技術と事業がきれいに分かれていません。どこまでを仕組みに落とし込み、どこから先を現場の裁量として残すのか。その線引き自体が、事業設計でもあり、プロダクト設計でもある。そこがこのテーマの本質的な難しさだと思います。

谷田 ですよね。しかも、取り込むべき暗黙知の種類がお客様ごとに違う。医療、介護、薬局、警備──業種が変われば制約の構造自体が変わります。探索空間の規模感で言うと、30人・30日・日勤/夜勤/休みの3パターンだけでも、理論上の組み合わせは3の900乗です。もちろん制約で大幅に枝刈りしますが、それでも実用的な時間内に「良い解」を出すには、最適化アルゴリズムの設計とドメイン知識の両方が要ります。


「正しいシフト」と「使われるシフト」は一致しない

能塚 一般的な業務SaaSであれば、正しくデータを保存する、ワークフローを整える、権限や監査性を担保するといったことが価値の中心になりやすいと思います。もちろんそれも重要です。一方でShiftmationには、答えを生成する責任があります。しかもその答えは、少し外れてもよい補助情報ではありません。実際の店舗運営や人件費、法令順守、従業員満足に直結する。つまり、出力そのものの品質がプロダクト価値の中核にあります。

さらに難しいのは、答えの良し悪しが単一指標で決まらないことです。

  • 労務的には正しいが、現場では不満が出る。
  • 稼働率は高いが、教育コストが増える。
  • 人件費は下がるが、欠員耐性が落ちる。

そうした複数目的のトレードオフを扱いながら、顧客ごとに異なる現実へ合わせていかなければいけません。現場は、論理的に正しいだけでは回りません。人の納得感や関係性、習慣、育成の文脈まで含めて運営が成り立っているからです。ただ、だからといって属人的なままでよいわけでもない。このズレを放置すると、現場は疲弊し、改善は積み上がらず、経営から見えないコストが増えていきます。だからこそ必要なのは、単なる便利ツールではなく、現場と経営の両方に効く仕組みだと考えています。

谷田 技術的には、ここは「正解を出す問題」ではなく、「受け入れられる高品質な解を継続的に出せる状態をつくる問題」になります。そのためには、制約を解くアルゴリズムだけでなく、設定、検証、説明、修正のしやすさまで含めて設計しなければいけません。


シフトメーションが挑んでいるのは、「難しさそのもの」を避けずに扱うこと

能塚 経営課題としての規模感を伝えると、たとえば常勤30人規模の施設では、人件費は年間数億円になります。シフトの組み方で稼働率が数パーセント変われば、年間で数千万円のインパクトがある。また、シフトへの不満は離職に直結します「希望が通らない」「不公平感がある」といったシフト起因の離職は、採用コストとして跳ね返ってくる。1人の離職で採用・教育コストが数十万〜百万円かかるとすれば、シフトの質は経営指標そのものです。

谷田 技術者からすると、「自分の書いたコードの出力が、年間数千万円の意思決定になっている」というのは、なかなか得がたい環境だと思います。この問題は「シフト作成」という一部の機能を便利にすれば終わりではなく、現場運営の質そのものに関わっています。最適化問題としての難しさと、現場運用としての難しさの両方を扱わなければなりません。計算上よい答えを出すだけでなく、その答えが人の組織の中で受け入れられ、継続運用されるところまで見なければいけない。そこがこの会社の技術課題の本質だと思っています。

能塚 事業として見ると、ここにこそ張る意味があります。難しいからこそ、解けたときに価値が大きい。しかも、これは一部の現場だけの特殊な問題ではなく、社会を支えるサービス現場に広く共通する構造課題です。だからこそ、目先の便利さではなく、本当に解く価値のある問題だと考えています。私たちは、現場の頑張りに依存しすぎる構造を変えたい。そのために、シフトという入口から入りつつ、現場と経営を支える複数の課題に向き合っていく。その構想自体が、シフトメーションという会社の面白さだと思っています。


難しい問題を、面白がれる人へ

能塚 この問題を面白いと思える人にとって、シフトメーションはかなり面白い環境だと思います。理由は、技術だけでも、事業だけでも解けないからです。計算や最適化に興味がある人にとっても、現場運営や組織の構造に興味がある人にとっても、そして複雑な経営課題に向き合いたい人にとっても、深く関われる余地があります。まだ未解決な部分も多いですし、正解が最初から決まっているテーマでもありません。だからこそ、これから入る人が関われる余地が大きい。難しいが、本当に解く価値がある。そういう問題に向き合いたい方と、一緒に進めていきたいと思っています。

谷田 技術的にも、単に機能をつくるだけではなく、難しいドメインをどう分解し、どう実装し、どう検証するかという開発の型そのものをつくっていけるフェーズです。加えて、いまはAI駆動開発も全面的に取り入れながら、複雑な仕様や業務知識をどう扱いやすい形に再構成するか、開発の進め方自体も更新しています。難しいドメインを解く面白さと、そのための開発のやり方そのものを進化させていく面白さ。その両方があるのは、今のシフトメーションならではだと思います。


専門職のシフトは、単純な自動化の対象ではない

専門職のシフトは、単純な自動化の対象ではありません。計算、現場、人の感情、制度、経営が交差する、非常に難しい問題です。だからこそ、技術・事業・組織、それぞれの優秀な人材が本気で向き合う価値がある。シフトメーションは、その難しさを避けずに引き受け、現場と経営の両方を前に進める仕組みをつくろうとしている会社です。難しいけれど、本当に解く価値がある問題を一緒に解きたい。そう思ってくださる方からのご連絡をお待ちしています。

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